2015年12月28日月曜日

港囧(ロスト・イン香港) 2015|大陸の香港文化と日本の香港文化--あるいは、なんでゴッホから始まるのか



徐峥が主演・監督した 《港囧》 は今年(2015年)の秋に公開され、大ヒットしました。香港以外の人から見れば、香港が舞台の映画で王菲(フェイ・ウォン)が主題曲を歌うのは、とても当然のことでしょう。

王菲 -《清風徐來》電影《港囧》主題曲


この映画は、徐峥が20年前の初恋の相手と、香港で20年ぶりに出会おうとする物語です。そんなわけで、80年代から90年代の香港の楽曲がたくさん使われています。

この記事では、80~90年代の香港文化と、この映画あるいは大陸(内地)との関係についてちょっと考えながら、映画で流れる楽曲を聞いてみましょう。

 《港囧》 って何?  “囧シリーズ” って何?  徐峥って誰?  などについては、こっちの記事を見てください。

港囧 2015|“はじめてのキス” あるいは “落下” とか “墜落” とか


香港の80~90年代を代表するスターといえば、なんといっても张国荣(レスリー・チャン)でしょう。そういうことで、《港囧》 の冒頭でも张国荣の古い映画が流れます。あるいは、20年前に美大生だった徐来(徐峥)と杨伊(杜鹃)は 《阿飞正传(欲望の翼)》 の大きな看板を描いていたりします。

日本での香港(映画)ブームというのは80年代後半から90年前半だったような気がします。こういった話に、成龙(ジャッキー・チェン)の映画みたいなのを入れる必要はないでしょう。

周润发(チョウ・ユンファ)のギャングもの、チャイニーズ・ゴースト・ストーリーとかキョンシーもの、王家卫(ウォン・カーウァイ)の青春映画、周星驰(チャウ・シンチー)のお笑い映画、あるいは王菲の歌……などが代表でしょうか。


では、大陸では香港の映画や音楽がどのように入ってきたのでしょうか。ネットで、あれこれ調べていたら、こんな本がありました。

与我们青春有关的记忆

中国成立から2010年あたりまでのアイドルの歴史についての本なのですが、半分は中国人から見た香港映画史みたいな本になっています。

大陸の人々がはじめて香港の歌手たちを見て、彼らの歌を聞いたのは、1984年のCNN(央视)の春晚(春节联欢晚会)でのことだったそうです。

著者の吴晓赟は、香港の歌手、香港の歌が、とても都会的でおしゃれ(軽妙洒脱)に見えた……というようなことを言っています。

日本で言えば、戦後の若者たちがアメリカ文化に大きな衝撃を受けた……そんな感じでしょうか。

鄧小平の改革開放が始まるのが1978年ですが、1984年くらいになって大陸にも香港文化が入ってきたのでしょう。したがって、現在(2015年)から20年前の1995年には、かなり多くの香港文化が流入していたことでしょう。また、六四天安門事件は、1989年6月4日です。

1972年生まれの徐峥は今43歳なので、1995年には23歳でした。この映画で,徐峥演じる徐来の奥様、菠菜を演じている1976年生まれの赵薇(ヴィッキー・チャオ)は、20年前には19歳です。当時の10代、20代すなわち70后にとっての香港文化は、日本で言えば60年代、70年代の若者たちにとっての欧米ロック文化みたいなものでしょうか。

日本での香港ブームにおいてイデオローグを務めたのが、山田宏一とか宇田川幸洋とかだったように思います。日本では、いまだに香港映画について何か語るとき、この人たちの言い草をだらだらとひきずっているように思います。今となっては、この人たちの悪影響ばかり残っている……そんなようにも思います。

日本での香港ブームと大陸での香港文化受容には大きな違いがあるように思いますが、その大きなひとつが大陸では香港TVBのテレビドラマが放映されていたということです。《港囧》 では、香港TVBのテレビドラマの楽曲がいくつか流れます。

日本でも香港TVBのテレビドラマはいくつかDVDになってはいるようですが、日本の香港理解に決定的に欠けていたのが香港TVBのテレビドラマだと言っていいように思います。

また1993年には、中国・香港合作で张国荣主演の 《霸王别姬(さらば、わが愛)》 が香港と大陸で公開されています。香港映画とは関係ありませんが、日本で中国映画が語られる場合、今でも陈凯歌とか张艺谋とかが語られてしまうのも、大きな不幸のひとつでしょう。


では、 《港囧》  でどんな楽曲が流れるのかを見ていきましょう。

许冠杰 沧海一声笑


70后にとっての “あこがれの香港文化” を、徐峥はこの映画でノスタルジックに語るわけではありません。それはそれで、とっても立派な態度です。そんなことは、現代の中国人--特に80后、90后たちにとっては何の関係もないからです。

日本人にもなじみ深い曲もいくつか流れます。徐峥がSMクラブで、絵を入れる筒が寝ている黒人の足に引っかかってしまい、黒人を起こさずに丸筒を取ろうとするのですが、結局黒人との格闘になってしまうとき流れるのが、《笑傲江湖》 1990 の “沧海一声笑” です。

日本では、《笑傲江湖(スウォーズマン 剣士列伝)》 1990 はDVDで見られるようです。監督は、山田宏一とか宇田川幸洋とかが大好きな胡金铨(キンフー)で、特に大褒めする必要はないと思いますが、いい映画でした。

日本でも公開された 《笑傲江湖Ⅱ東方不敗(スウォーズマン 女神伝説の章)》 の主題歌でもあるので、覚えている人も少くないことでしょう。林青霞(ブリジット・リン)の东方不败が話題になったと思いますが、アクション監督から映画監督になった程小东という人が、いい映画を作るのは永遠に不可能であるように感じます。、


卢冠廷 - 一生所爱


徐来(徐峥)がいよいよ初恋の相手と出会おうかというシーンで流れるのが 《大话西游(チャイニーズ・オデッセイ)》 1994 の “一生所爱” です。日本人から見ると “なんだ、ノスタルジックやってるじゃないか” と思えてしまうかもしれません。

中国の映画ファンにとって、最も有名な映画というのは 《大话西游》 ではないでしょうか。総合文化サイト “豆瓣” での 《大话西游之月光宝盒(1)》 の評価は、現在(2015年12月)301227人が投票して10点満点の8.9、《大话西游之大圣娶亲(2)》 は347252人が投票して9.1です(この記事の下書きは2、3日前に書いたものだったので、今、数字を訂正しました。2、3日の間で1000票前後も増えていました)。

Part1よりPart2のほうが投票者も多く評価も高いのは、もちろんPart2のラストシーンが “一生所爱” が流れるあのシーンだからです。

日本ではヒットしなかったのであろう周星驰の 《西游・降魔篇》 だって2013年の公開です。そういうわけで、《大话西游》 と “一生所爱” は現代の中国において極めて現代的な映画であり楽曲であり、誰でも(映画ファンでなくとも)“一生所爱” は知っているわけです。


倩女幽魂


あれこれあれこれあって、徐来は初恋の扬伊に会うことをいったんは断念します。しかし、意を決して “2046” 号室にいる扬伊に会いに行くことにします。その道中のバスの中とかで流れるのが张国荣の 《倩女幽魂(チャイニーズ・ゴースト・ストーリー)》 1987 の主題曲です。

これも日本の香港映画ファンにとって、ノスタルジックと言えばノスタルジックなわけですが、これも中国の映画ファンにとってはノスタルジックなわけではないでしょう。2011年には刘亦菲と古天乐のあまりに駄作なリメイクも作られています。

徐峥が “決め” のシーンで “一生所爱” と “倩女幽魂” を選んだのは間違いではないように思います。


1980版" 上海滩" 主题曲原声版


A Better Tomorrow Main Theme (best quality)


英雄本色(A Better Tomorrow) 當年情-張國榮


1995年ころ、10代や20代だった大陸や日本の香港映画ファンの男の子にとって、周润发を語らないわけにはいかないでしょう。

周润发の少年時代からTVBに入るまでの苦労話は(たぶん)日本でも知られていることと思います。周润发の出世作であるTVBテレビドラマが 《上海滩》 1980 です。もちろん、黄晓明の 《新上海滩(新・上海グランド)》 2007 は、このリメイクです。

当時の香港では、まずTVBの役者になり、テレビドラマが大ヒットして、映画スターになるというのがひとつのパターンです。たとえば、刘德华(アンディ・ラウ)もこのパターンであり、周星驰が梁朝伟(トニー・レオン)を誘っていっしょにTVBの試験を受けたのも有名な話しでしょう。

このパターンの、最後のスターが古天乐(ルイス・クー)でしょう。香港返還直前に放映された古天乐の 《神雕侠侣》 1995 は、今でも 《神雕侠侣》 ものの最強の経典とされています。TVBからスターになった人たちは、誰もが金庸ドラマの主演をしているわけですが、周润发だって、あまりになんだかなーではありますが 《笑傲江湖》 1984 があります。

そんなわけで、大陸においては “周润发と刘德华には金庸ドラマの傑作はないよな” とか、“《鹿鼎记》 ならば梁朝伟と刘德华の1984版より、陈小春版 1989 だよな” とか、そういう議論ができるわけですが、そういう文化が日本には欠落しているわけです。

銀幕のスター周润发が確立する 《英雄本色(男たちの挽歌)》 1986 については、ここで今更あれこれ言う必要はないでしょう。


《港囧》 において、徐峥は映画について、2度語ります。1つは冒頭のほうで、徐峥と包贝尔がドキュメンタリー映画について語るシーンです。包贝尔が “ぼくのパパのロバート・フラハティが……” と言うと、徐峥が “おまえのパパがなんでフラハティなんだ” と突っ込みます。

拉拉(包贝尔)はドキュメンタリー映画を目指しているわけで、ドキュメンタリーの父=ロバート・フラハティが、拉拉のパパであるのは、それはそれで筋が通っているお笑いなわけです。したがって、拉拉のママはレニ・リーフェンシュタールということになります。

もうひとつは徐来(徐峥)と拉拉が、王晶(バリー・ウォン)の撮影現場に出くわすシーンです。80~90年台の香港映画を代表する監督が王晶であるというのは、王晶の映画の出来がどうのこうのというのは別にして、それはそれで間違いではないでしょう。王晶は自分で映画にでるのも好きですが、この人は絵になります。

また、おなじみの香港の役者たちも登場します。

たとえば、周星驰映画にけっこう出ている苑琼丹は、SMクラブの女子高生(小学生?)です。くわしいことは書きませんが、見て笑ってください。

林雪には、現代の香港映画や中国映画で、ちょくちょくその個性的な体格にお目にかかります。

たとえば 《毒战》、《101次求婚》、《热浪球爱战》、《越光宝盒》、《大话天仙》、《白蛇传说》 などなどです。この人も周星驰映画にけっこう出ています。

《港囧》 で林雪がどんなふうに登場するかというと、林雪が線香をあげているところに、包贝尔が飛び込んできて、骨壷が粉々になってしまいます。実は、このシーンこそ、徐峥が香港映画を語っているのかもしれません。

《港囧》  はゴッホの絵から始まります。ゴッホの絵なおかつ線香をあげるシーンを見れば、必ず思い出してしまう香港映画があるはずです。そう、林雪は刘镇伟(ジェフ・ラウ)の 《回魂夜(ゴーストバスター)》 1995 に出ています。80~90年代の香港映画における最大の傑作のひとつが 《回魂夜》 でしょう。

大学時代、徐来はゴッホについて語り、杨伊はアンディ・ウォーホルについて語り、徐来が20年ぶりに目にする杨伊はアンディ・ウォーホル仕掛けのゴッホの絵の中から、階段を降りてきます。


最後に、これまで触れていな 《港囧》 で流れる主な楽曲を、映画ラストのクレジットタイトルの順番で紹介しておきます。

陈百强MTV-偏偏喜欢你




張國榮 為你鍾情




古惑仔之爭鬥影片  陈小春- 乱世巨星





张国荣早期经典演出 "拒绝再玩"



万里长城永不倒 叶振棠(电视剧《大俠霍元甲》主題曲)

2015年12月22日火曜日

港囧(ロスト・イン香港) 2015|“はじめてのキス” あるいは “落下” とか “墜落” とか



今年(2015年)大陸で最もヒットした2D映画が9月25日に公開され、徐峥包贝尔が主演した

港囧 2015

です。2D映画という但し書きがつくのは、もちろんもっとヒットした3D映画 《捉妖记》(7月16日公開)があるからです。

《太囧》
2013年、大陸の国産映画のヒット記録を作ったのが春节に公開された周星驰の 《西游・降魔篇》 2013 です。しかし、同時期に公開されていた 《泰囧》 2012 がこの記録を破ります。そして、《港囧》 は 《泰囧》 に続く “囧” シリーズです。

“囧” シリーズの1つ目が 《人在囧途》 なのですが、これまでの“囧” シリーズについては、それぞれの記事を見てください。

人在囧途 2010|人は古き時代に生きている
人再囧途之泰囧 2012|異国情緒はタイにある!

徐峥は 《泰囧》 で初監督に挑み、この 《港囧》 も監督しています。また、徐峥の映画について語る場合、宁浩監督を忘れるわけにはいきません。宁浩のお笑い映画のほとんどに、徐峥は出演しているからです。宁浩の映画を見れば、徐峥が宁浩から多くを学んでいることがわかるでしょう。

宁浩(ニン・ハオ)の軌跡|主役は乗り物だ

《无人区》
徐峥と黄渤が主演した宁浩の 《无人区》 は2010年のお正月に公開予定だったのですが審査が通らなかったため、一時期お蔵入りしてしまいますが、なんだかんだ2013年秋に公開されました。

徐峥は “《无人区》 お蔵入り事件がなかったら、《泰囧》 を自ら監督することはなかった” と語っていました。

これは 《无人区》 で演技がなんたるかを自覚したため、自分の演技をスクリーンに一刻も早く登場させたかったということのようです。


《人在囧途》 と 《泰囧》 は、いわばロードムービーでした。さらには、昨年(2014年)公開され国産映画としては最もヒットした宁浩監督、徐峥と黄渤主演の 《心花路放》 はたっぷりロードムービーでした。

《心花路放》
そんなわけで 《港囧》 は、ロードムービーではありません。“走る映画” とでも言えばいいでしょうか。それよりも “落下する映画” とか “墜落する映画” と言ったほうがいいかもしれません。

金庸原作などの武侠ものでは、よく人が崖の底に落ちていきますが、そのお笑い版……というよりは、ブルース・ウィリスの 《ダイ・ハード》 シリーズのお笑い版と
言ったほうが正しいように思います。

徐峥と包贝尔が香港の街を歩いていると、鉄兜を被っている徐峥が道のくぼみに足をとられ、その足をとられたカットが何度か繰り返されます。これが合図です。徐峥と包贝尔は香港の街を走りに走り、落下し、墜落します。

この二人は、いったい何度落下し、何度墜落したことでしょうか。いったい、なんでそん
なことになってしまったのでしょうか。


この映画では、80~90年代の香港の音楽がたくさん使われています。どんな曲が使われているのかについては、こっちの記事を見てください。

港囧 2015|大陸の香港文化と日本の香港文化--あるいは、なんでゴッホから始まるのか


徐来(徐峥)は、妻といっしょにブラジャーの会社をやっています。会社はけっこう繁盛しているようで、一家そろって香港旅行にやってきます。《泰囧》 では范冰冰が范冰冰として登場したわけですが、この映画では赵薇が徐来の奥さん(蔡菠)として登場します。

しかし、徐来には香港に来た本当の理由があります。それは大学時代の初恋の相手、杨伊に会うことです。杨伊は、今では香港を拠点にして世界を飛び回るアーティストです。杨伊を演じているのは杜鹃という人です。

杜鹃はバレー(舞蹈)を目指していたのですが、背が高すぎる(179)ためバレーを断念して、主にモデルとして活躍しているようです。

2012年には、黄晓明邓超佟大为が揃った 《中国合伙人》 で、初めて映画に出演しています。

大学時代、徐来と杨伊の間に入って、徐来をだんなにしてしまったのが蔡菠です。ぼくは、赵薇のたぬき顔は好きじゃないし、演技も下手だと思います。赵薇が監督した 《致青春》 はあまりに悲惨でした。ただし、この映画で注目されたのが包贝尔でした。

この映画では、赵薇が “(だんなの徐峥に)あんた、こんなきれいな人(杜鹃)と……” と言います。

赵薇が “こんなセリフを!” と思って笑うべきなのでしょうが、ぼくはブスな奥さん(赵薇)の嫉妬として、素直に納得しました。たぶん、徐峥は確信犯だと思います。

今年(2015年)は、赵薇が久しぶりに主演したテレビドラマが放映されて、いっとき話題になりました。ちょっとは見てみたのですが、相変わらずのワンパターン演技です。

虎妈猫爸 2015

菠菜--徐来は蔡菠の発音をひっくり返して蔡菠を菠菜(ほうれんそう)と呼びます--の弟(拉拉)は、ドキュメンタリー映画で成功するのが夢で、その題材に徐来を選んでしまいます。

拉拉を演じているのは包贝尔です。

香港では、おかっぱ頭に縁太の大きなメガネをかけた(たぶん、おたく系な)少女たちをけっこう見かけます。《港囧》 の包贝尔のおかっぱとメガネがまさにそれで、それだけで映画が香港らしくなります。

《人在囧途》 と 《泰囧》 では王宝强が徐峥の相方を務めましたが、王宝强は超有名人のひとりになって忙しい日々を送っているのでしょう。あるいは、ロードムービーからの脱却のためにも、徐峥は新しい相方を選択したのかもしれません(この記事の一番下のほうに、徐峥がことの真相を語っているビデオを貼っておきました)。

包贝尔を知らない中国人は、ほとんどいないと思います。顔が三枚目なので、たいていは笑いを誘うタイプの脇役です。このブログでも、なんだかんだ包贝尔の出ている映画やドラマを見ています。

画壁 2011|スン・リー+ダン・チャオ
四大名捕2(ドラゴン・フォー2 秘密の特殊捜査官 / 陰謀) 2013
致青春(So Young~過ぎ去りし青春に捧ぐ~) 2013

宫2(宫锁珠帘) 2012|豚モツ唇なおねえさん
东方不败と令狐冲の恋だって!?|新笑傲江湖 2013
宫锁连城(宫3) 2014|于正、またパクったな!

ところが、徐峥が 《港囧》 で包贝尔を相方に選んだというだけで、包贝尔は一気にブレイクしてしまったのかもしれません。

今年(2015年)3月に 《奔跑吧兄弟 第二季》 から王宝强が抜けて、その代わりに参加したのが包贝尔です(2015年10月からの第三季には不参加)。また、今年の11月には主演している2本の映画が公開されました。

年少轻狂 2015
我的青春期 2015


拉拉は、徐来が女に会いに行こうとしていることに気づいてしまい、徐来を追跡します。徐来は拉拉を振り払おうとするのですが、拉拉はしつこく追いかけてきます。もちろん、拉拉はずっとカメラを回しています。

そんなこんなで二人は、映画の撮影現場に出くわします。監督は王晶です(ほんものの王晶です)。徐来が道のくぼみに足をとられたとき、彼は鉄兜を被っていますが、なんでそうなってしまったのかというと、この撮影現場でのドタバタが絡んでいます。

この鉄兜は最後まで映画に絡んでくるのですが、まだ落下と墜落は始まっていません。徐来と拉拉は、二人組の刑事にも絡まれます。なんで警察が絡まれてしまうのかはともかく、二人組の刑事というのは、いかにも香港らしいからでししょう。

後輩のほうの刑事を演じているのが、李璨琛という人です。この人は、日本で今でもレンタルできるのかもしれない 《齐天大圣孙悟空》 2002 で沙悟净を演じていました。李璨琛は、日本では永遠に放送されることはないであろう胡歌刘亦菲の 《仙剑奇侠传》 2005 にも出ていました。


徐来と拉拉が香港の街で、どのように走り、どのように落下し、どのように墜落するのかは、書かないでおきましょう。実際に見て笑ってください。話の発端がわかっていれば、中国語がわからなくても笑えるように思います。

あ。ちょっと書いてしまうと、香港に行くとこの分厚い鉄扉の向こうはどんな世界なんだろう? と、誰もが思うことと思います。二人の走りは、そんな鉄扉の向こう側の世界の一端を教えてくれます。


最後に “初めてのキス” について、書いておきます。映画の冒頭、徐来と杨伊がキスをしようとして、どうしてもキスができないいくつかのエピソードが語られます。

ぼくたち男はAVとかを見て、胸とか局部とか裸体とか、セックスシーンとかで興奮するわけですが、一般的に女の子とのセックスにたどり着くためには、はじめてのキスが
欠かせません。

そういう意味では、好きな女の子と最初にしたい肉体的接触は、まず手をつないで、それからキスということになります。ただし、徐来と菠菜のように、手をつなぐのは省略されることもあるでしょう。

徐铮拿到了避孕套
とにもかくにも女の子とのおつきあいにおいて、最初で最後の難関が “初めてのキス” です。

で、初めてのキスとか、初恋とかにこだわりたがるのが男です。そういうわけで、この映画はきわめて男の映画ということになります。

ぼくは中国の90后の女の子と、この映画の話をしたことがあります。彼女はこの映画がちっとも面白くなかったと言っていました。女性は、男がなんで初めてのキスとか、初恋とかにこだわるのか理解できないからです。

《港囧》首支正式预告片


清风徐来 - 王菲 - 电影《港囧》theme song


《金星时间》20150923期: 徐铮独家爆料港囧拍摄诡异传闻 揭秘《港囧》为何弃用王宝强【东方卫视官方高清版】


《港囧》发“飞机”番外篇

2015年11月19日木曜日

芈月传 2015|ドラマの時代背景と 《甄嬛传(宮廷の諍い女)》 後の孙俪(スン・リー)



甄嬛传(宮廷の諍い女)》 2011 の孙俪(スン・リー)が、やっとこさ宮廷ドラマに帰ってきました。いよいよ(2015年)11月30日から

芈月传 2015

の放映が始まりました。タイトルは、まさに二匹目の 《甄嬛传》 狙いです。瞬間、 “华月传” かと思ってしまいましたが、“华” ではなく “芈” です。“芈” なんて漢字、見たことありませんでした。発音は mǐ です。

この記事では、ドラマの概要や時代背景、《甄嬛传》 以後の孙俪の活動などについて書いておきます。

《芈月传》 は(たぶん)81集あるのですが、クランクインが2014年9月6日(内モンゴル)で、その後、河北涿州や北京园博园などあちこちでの撮影を経て、2015年1月29日に横店でクランクアップしたそうです。

主な登場人物たちのあれこれについては、こっちの記事にまとめておきました。

芈月传 2015|“宫斗” ではなく “朝斗” の登場人物たち


戦国時代半ばの物語です。詳しい歴史が明らかになっていない時代を選べば、大陸のテレビドラマに課せられた多くの禁制からも逃れられるという面もあるでしょう。

戦国時代の主だった国は斉・楚・秦・燕・韓・魏・趙ですが、楚の威王の娘のひとりが芈月です。

しかし、威王の奥様のおかげで、芈月と彼女の母はつらい生活を送ることになり、数奇な運命をたどる--そんな物語のようです。

監督も含めて多くのスタッフが甄嬛传組だそうですが、監督の郑晓龙は “《甄嬛传》 の続編のようなつもりで見ると失望することになる” と語っています。芈月は実在した人物であり、《甄嬛传》 は “宫斗(後宮の闘い)” でしたが、こちらは “朝斗(朝廷の闘い)” とのことです。


なぜ “宫斗” ではなく “朝斗” なのかというと(書いてしまいますが)芈月は秦において “太后”  になるからです(“宣太后” あるいは “芈八子” と呼ばれます)。太后とはもちろん皇帝の母親のことですが、芈月がはじめて太后という “位” を創設したそうです。

詳しいことは実際のドラマを見て楽しみたいと思いますが、もちろん太后という地位を利用して政治を牛耳るのでしょう。ただし、たとえば武则天武媚娘)には強烈な悪女イメージがあるわけですが、宣太后は始皇帝のひいおばあちゃんであり、始皇帝が統一国家を打ち立てる礎を築いたとのことです。


この朝斗物語はどうやって誕生したのかというと、やはり 《甄嬛传》 から生まれたと言っていいでしょう。ドラマのシナリオを担当しているのは蒋胜男王小平の二人です。王小平は監督・郑晓龙の奥様で、 《甄嬛传》 のシナリオも担当しています。蒋胜男は、大衆歴史小説の女流作家です。

(胜男は日本語で書けば “勝男(かつお)” です。いくら現代の日本のパパママが変な名前を子供につけるからといって、女の子に “勝男” という名前はつけないでしょう。ぼくは胜男という中国人の女の子に会ったことがあります。)

蒋胜男が小説 《芈月传》 を書き始めたのが2012年だそうです。大ヒットした 《甄嬛传》 に触発されて、この物語を思いついたのでしょう。シナリオの第一稿が出来上がったのが2014年3月で、小説が出版されたのが今年(2015年)9月だそうです。詳しいことはわかりませんが、小説とシナリオが同時進行していたのかもしれません。

なお、このドラマの宣伝活動が始まると、たぶん著作権がらみの問題で、蒋胜男は王小平に文句をつけ、二人の仲はこじれてしまったようです。

また、乔小主という人が書いた 《芈月传》 と同名の小説もあるらしいのですが、本当かどうかはわかりません。


孙俪は、《甄嬛传》 の後、何をしていたのでしょうか? 《甄嬛传》 までの孙俪については、こっちの記事を見てください。

后宫・甄嬛传 2011|孙俪传(スン・リー伝)

《甄嬛传》 が最初に放映されたのは2011年ですが、その2011年、孙俪は邓超と結婚して、娘を産みます。その後、子育てに専念して、何も活動していなかったわけではありません。2013年にはテレビドラマに主演しています。

辣妈正传 2013

辣妈正传
ただし、このドラマはたいして話題にはならなかったように思います。

そして、2014年5月には香港で2番目の娘を出産しています。なんで香港なのかというと、第2子を産んだ罰金を逃れるため--とかあれこれ話題になりました。

香港には、大陸の有名人を香港人にさせてあげるみたいな制度があって、孙俪夫婦は香港人になったようです。

2014年には、彼女が出演した2つの映画が公開されています。

大话天仙 2014
分手大师(失恋の達人~上手に愛を手放す方法) 2014

ただし、《大话天仙》 には、あれこれ事情があります。刘镇伟は、 《越光宝盒》 2010 に引き続き、孙俪主演で 《天仙奇缘》 という映画を撮り始めるのですが、資金がショートしてしまい完成しませんでした。

大话天仙
刘镇伟いわく “どこの誰だか知らないが”、《天仙奇缘》 の既存フィルムといくつかのシーンを新たに撮影して、映画にでっちあげてしまったのが 《大话天仙》 です。

刘镇伟自身は、《大话天仙》 は自分とはなんの関係もない映画だと、新浪で言っていました。

ただし、ぼくはこの映画はけっこう好きです。《越光宝盒》 の孙俪が明るい狂気であったとすれば、《大话天仙》 の孙俪は冷たい狂気であって、とことん冷たい孙俪がものすごくきれいだからです。

また、邓超と杨幂が主演して、邓超も共同監督を担った 《分手大师》 では、孙俪はほんのちょこっと客串(ゲスト出演)しているだけです。


孙俪は 《芈月传》 の出演依頼を受けたとき、誰もが 《甄嬛传》 を意識してこのドラマを見ることは明らかで、すごくプレッシャーな仕事になるはずだし、撮影が始まるのが2番目の子供が生まれてからあまり時間がないこともあり、決断するにはあれこれ悩んだそうです。でも、シナリオを読むや、一発で出演を決めたそうです。

彼女は 《甄嬛传》 のときも、セリフを覚えるのに相当苦労したと言っていましたが、今回はクラインクインの一ヶ月前からセリフを覚えはじめ、誰にも会わない、電話にも出ない状態でセリフを覚えていったようです。

常に辞書や成语词典を抱えていても、それでも知らない言葉が出てくるので、そのときはシナリオの王小平に電話してあれこれ教えてもらったそうです。だんなの邓超も協力してくれたようです。彼は少年皇帝を何度か演じたことがあるので、邓超にセリフをしゃべらせて、それを録音して自分のセリフを練習したそうです。


孙俪は、このドラマを撮ったあと、だんなの邓超と共演している映画を撮っています。邓超は、この映画では本格的に監督をしているようです。

恶棍天使
恶棍天使 2015

2015年6月~8月に撮影され、今年(2015年)の12月24日に公開されます。

《分手大师》 と同様、もともとは俞白眉という人が書いたお芝居なのですが、お芝居の 《恶棍天使》 は、邓超はプロデューサーも担当しています。

かなりシュールでロマンチックな喜劇のようなので、それなりに期待していようと思います。


最後に 《芈月传》 の時代背景である中国の戦国時代について、おおざっぱにまとめておきましょう。

実在したとされている最も古い中国の国家が殷(紀元前17世紀頃~紀元前1046年頃)です。だから、ドラマや映画で描かれる中国の最古の王朝も殷ということになります。どう描かれるのかというと

封神演义(封神榜)

黄轩
における、周(紀元前1046年頃~紀元前256年)が殷を倒す戦いです。神話世界のエンターティンメントとして、女媧、哪吒、姜子牙、申公豹、妲己といったヒーローや妖怪たちも大活躍します。

このブログでは、“封神榜” ものドラマを2つ見ています。

テレビドラマ 《封神榜》 2006 2009
封神英雄榜 2014 -- 妲己=张馨予!

こうして、周(西周)が新たな王朝を立てることになります。ただし、統一王朝ではなく、多くの都市国家が存在し、都市国家の諸侯は周王を君主とするわけです。やがて周が衰えていくと、都市国家どうしが覇を競うことになります。

蒋欣
これが春秋時代(前770年~前403年)です。なんで前770年から始まるのかというと、この年から東周が始まるからです。チベット系部族が周を脅かし、周は首都を鎬京から東の洛邑へと遷都するからです。こうして、前770年以降の周は東周(二周)と呼ばれます。


刘涛
とはいえ、春秋時代の諸侯にとっては、建前は周王が主君であるわけです。都市国家どうしは尊皇攘夷を旗印にして、主君である周王のために、外敵を倒すために戦うということになります。

春秋時代には、春秋の五覇という有力諸侯がて、一般的には斉の桓公、晋の文公、楚の荘王、呉王夫差、越王勾践を指すそうです。

やがて、晋において家臣が独立して韓・魏・趙という三国に分裂したのが契機となって、下克上の時代になります。こうして、周王朝は都市国家にとっての権威ではなくなり戦国時代(前403年~前221年)が始まります。

戦国時代においては、斉・楚・秦・燕・韓・魏・趙という都市国家が戦国の七雄と呼ばれるそうです。

周は消えてしまったのかというと、そうではなく秦が統一国家を打ち立てる直前まで、細々と続いています。もちろん、周を消滅させるのは秦です。

《芈月傳》官方片花 (預告)─鄭曉龍作品


《芈月传》首曝26分钟超长片花

2015年11月17日火曜日

芈月传 2015|“宫斗(後宮の闘い)” ではなく “朝斗(朝廷の闘い)” の登場人物たち



2015年11月30日、《甄嬛传》 に続く孙俪(スン・リー)の宮廷ドラマ

芈月传 2015

が始まりました。《花千骨》 の記事では、大陸テレビドラマにおける今年最大の話題作は 《花千骨》 だったと書きましたが、それはそれでそういうことにしておきましょう。この 《芈月传》 は、どんな話題を巻き起こすのでしょうか。

《甄嬛传》 は “宫斗(後宮の闘い)” でしたが、この 《芈月传》  “朝斗(朝廷の闘い)” です。ドラマの概要や時代背景、《甄嬛传》 以後の孙俪の活動などについては、こっちの記事を見てください。

芈月传 2015|ドラマの時代背景と 《甄嬛传(宮廷の諍い女)》 後の孙俪

この記事では、主だった登場人物たちを(自分のためにも)それほどネタバレにならない程度に紹介しておきましょう。間違いも多いことと思います。ドラマを見始めてから、たらたら修正していこうと思っていたのですが、このドラマを本気で見たい気持ちはなくなってしまったので、このままにしておきます。ごめんなさい。


芈月孙俪

芈mǐ月が、この物語の主人公であり、もちろん演じているのは孙俪です。芈月は戦国時代(前403年~前221年)の半ば、実在した人物です。楚国の威王の公主なのですが、生まれると同時にかなり過酷な人生が始まります。

芈月は、どんな運命を切り開いていくのでしょうか。あるいは、どんな男とどんな愛を語っていくのでしょうか。

香儿陈楚月

芈月の侍女頭が香儿です。彼女は、芈月の数奇な生涯にずっとつきあい、重要な役割を演じるようです。

陈楚月という女の子が演じているのですが、ぼくはちょっと期待しています。1992年生まれの90后で、写真を見ると美女ではなさそうですが、けっこうほんわかしているのかもしれません。


芈姝刘涛

芈月と同父異母のおねえさんが芈姝です。楚国の王室ではいじめられてばかりいる芈月を、常に守ってくれるやさしいおねえさんのようです。やがて秦の惠文王に嫁ぎますが、そのとき芈月も芈姝の侍女として秦に行くことになります。

ただし、この麗しき姉妹関係は、いつまでも続くわけではなさそうなのですが、それは見てのお楽しみということにしておきましょう。

演じているのは、1978年生まれのの大ベテランと言っていいでしょう刘涛です。今年は胡歌の話題作 《琅琊榜》 2015 に出ていましたが、中国の人も日本の人も最も印象が強い刘涛とは 《天龙八部》 2003 の阿朱なのかもしれません。

玳瑁李蓓蕾

玳瑁dàimàoは威后の侍女で、芈月と芈月を虐待する実行犯です。

ただし、芈姝が秦に嫁ぐにあたって芈姝の侍女になるようです。芈姝のためには、かなり悪辣な手段を使い、芈月殺害計画ももくろむようです。


孟昭氏徐百卉

芈姝の侍女として芈月とともに、秦にやってくるのが孟昭氏です。この子は楚のスパイで、芈姝と芈月を仲違いさせることに尽力するようです。






魏琰马苏

魏国の公主で秦の惠文王の側室の一人です。魏琰yǎnを演じているのは马苏という女優さんです。たいていは脇役ですが、美女なので、けっこう人気のある人です。

今年(2015年)ならたとえば、黄晓明杨幂というヒットしない映画の2大巨頭が主役で、さらには今年、黄晓明の嫁になったangelababyも出ている映画 《何以笙箫默》 に出ていました。

去年(2014年)は、宁浩監督、徐峥黄渤が主演の 《心花路放》 では、きわどい商売をしている女を演じて話題になりました。

《心花路放》
魏琰は香水の調合や華麗な服を着るのが趣味で、いかにもおしとやかなのですが、性格はとても悪そうです。惠文王の王后(まだ皇帝はいないので皇后もいません)の妹なので、後宮ではNo.2にあたります。

王后が死んだため、自分が王后になると思っていたのですが、惠文王は芈姝を王后として迎えます。

怒り狂った魏琰は、芈姝と芈月の秦への旅の途中から刺客を送り込み、芈姝と芈月が秦の王室にやってきてからは、芈姝と芈月を仲違いさせようとか、あれこれの攻撃を繰り出すようです。

《甄嬛传》 で最も強烈な悪役が蒋欣演じる华妃でしたが、马苏の悪女ぶりを楽しみにしていたいと思います。华妃あるいは蒋欣ファンの方は安心してください。蒋欣は、このドラマにも出ています。


黄歇黄轩

楚で有名な四大おぼっちゃま(公子)の一人で、芈月の青梅竹马であり、すなわち芈月の初恋の人です。秦で皇太子芈横の補佐役を担うようです。

《甄嬛传》 の難点のひとつは、大量の美女を必要としたため、それなりに揃えはしたのですが、美女どころとか有名どころに欠けていたことでした。《芈月传》 は 《甄嬛传》 より予算的に楽だったのでしょう。刘涛とか马苏を用意しています。

《推拿》
黄歇を演じる黄轩は、売り出し中の2枚目です。85年生まれながら、小鮮肉のひとりとして数えられています。QQの知り合いが、彼のファンだと言っていました。

昨年(2014年)アジアの映画祭を総なめした娄烨の 《推拿》 では、ほぼ主役である小马を演じていました。

惠文王|嬴驷方中信

秦の惠文王の名前が嬴驷sìです。嬴驷は孝公之の子で、芈月のだんなであり、秦の昭襄王のパパです。芈月は芈妹侍女として秦の王室にはいったはずですが、どういういきさつで側室になるのか、これも見てのお楽しみでしょう。

嬴驷sìと芈月が出会ったとき、嬴驷は30なにがしで芈月はまだ15の少女です。
嬴驷の芈月に接する態度は夫であると同時に、彼女の兄であり父でもあります。

嬴驷は芈月を蔑まされる境遇から救い出し、彼女の人生に自信を与えます。また、家族を守るための政治における権謀術策も教えます。しかし……さあ、どんな波乱が展開していくのでしょうか。

翟骊|义渠王高云翔

秦西北部の少数民族の义渠yìqú王が翟骊dílíです。翟骊は、しばしば秦をかき乱します。時には大暴れし、時にはなついてくるようです。

中国の歴史には、いつも北方民族との攻防がついてまわります。この時代、まだ漢民族という自覚はないのでしょうが、北方民族は夷狄であって、自分たちとは違う人だったのでしょう。とはいえ、夷狄とあれこれ混血していくのも中国の歴史です。

芈月の人生には、3つの重要な愛情物語があるそうです。2つは、すでに紹介した黄歇と嬴驷(惠文王)との愛です。そして、3つ目がこの翟骊(义渠王)です。なんで芈月が夷狄の王と愛を語ることになるのか、それは、ドラマを見る前から知る必要はないでしょう。

《哪吒与杨戬》
翟骊を演じる高云翔という人は、ドラマであれば主役級をこなせる人です。たとえば、このブログでは 《宫锁连城》 を見ています。今年(2015年)は 《爱你,万缕千丝》 という恋愛ドラマで黄圣依と共演しています。

たぶん来年(2016年)に放映される 《哪吒与杨戬》 というドラマでは、杨戬二郎神)を演じています。封神演义の少年神たちの若き日の成長を描く喜劇だそうです。ただし、シナリオが王晶なので、あまり期待しないほうがいいかもです。


楚威王赵文瑄

楚の君主の中でも最強の一人が威王であり、芈月のパパです。軍人気質で楚を拡大することに精力を費やし、多くの国を滅ぼします。芈月にとって、威王はヒーローです。

しかし、後宮で威后が何をやっているのかについては、まるで知りません。しかし、芈月のママ向氏の命を賭けた訴えで、威后の悪事を知ることになるのですが……。


楚威后姜宏波

自分の息子である芈槐huáiと娘の芈姝ばかり可愛がり、庶子の子供たちには対しては、悪どい手口でいじめています。

しかし、芈月のママ向氏によって、威王に威后の悪事を知られてしまい、威后の地位も息子の太子の地位も廃されることになります。ところが……。

そうはならなかったため、威后は芈月と芈戎さっさと始末してしまおうとするのですが……。

楚怀王|芈槐曹征

威王と威后の嫡子が皇太子の芈槐であり、後の楚怀王です。母親に甘やかされて育ったため、無能で淫らな人間に育ってしまいます。

威王は威后と太子を廃そうとしたのですが、悲しみのあまりの深酒がたたり死んでしまい、芈槐はまんまと威王を継ぐ怀王になります。

ただし、楚怀王は、父が築いた大国を……ということになるのでしょう。

南后郑袖袁志博

楚の怀王の奥様が郑袖であり、芈兰の母になります。“南后”というのは、たぶん威后に対しての呼び方なのでしょう。

計略に長け、冷酷な手口も使うようです。




向氏孙茜

甄嬛の最後のセリフは “槿汐,我累了” でした。向氏を演じている孙茜が、《甄嬛传》 の槿汐です。なんだかなつかしいですね。ただし、今回はかなりかわいそうな役どころのようです。

向氏が誰かというと、芈月のママです。もとは莒姬の媵女yìngnǚで、媵女とは公主の結婚にくっついてくる身内の女性のことで、媵女もだんなのものになるようです。

向氏は莒姬を姐姐と呼び、莒姬は向氏を妹妹と呼びますが、本当の姉妹なのか、姐姐・妹妹と呼び合う親戚なのかは、よくわかりません。

芈月の出産に際しては “天を制覇する子が生まれる” というお告げがあったため、王室全体が騒然とします。しかし、芈月が女の子だったため、威王はがっかりしてしまいます。威后はほっとはするのですが、玳瑁に芈月を捨てさせてしまいます。

芈月は辛い境遇にありながら明るく活発な子供で、ちゃっかり威王とお友達になってしまいます。その結果、向氏は威王の寵愛を受け、2番目の子供が生まれます。それが男の子の芈戎です。

葵姑井星文

向氏の侍女が葵姑で、向氏の良き相談相手です。向氏が後宮から連れだされてしまった後は、葵姑が幼い芈月と芈戎の面倒を見ます。

なお、百度で井星文を検索すると李君懿が表示され、“井星文一般指李君懿(井星文とは李君懿のことである” と書かれています。

莒姬蒋欣

莒jǔ姬は莒国の公主で、威王の側室のひとりです。演じているのは 《甄嬛传》 で华妃を凄絶に演じた蒋欣ですが、今回は蒋欣は孙俪の敵ではありません。

向氏が芈戎を生むと、威后は毒を仕込んだ着物をプレゼントして、向氏の体は発疹だらけになってしまいます。威后は、これは大変な病気だということで、向氏を後宮から追い出して、しかも男をあてがって犯させてしまいます。

そんなわけで、子供のいない莒姬が芈月と芈戎のママ代わりになります。向氏は生命を賭して威后に报仇しますが、莒姬は生命を賭して芈月と芈戎を生き延びさせます……。

そんなわけで向氏も莒姬も、 第四集あたりで姿を消してしまいます。《甄嬛传》  の华妃(蒋欣)と槿汐(孙茜)ファンには、ちょっと寂しいかもですね。

芈戎李泓良

向氏の2番目の子供で、つまりは芈月の全弟が芈戎róngです。生まれたとたん、ママは後宮から追い出されてしまうので、ママに甘えることを知りません。

芈月はそんな芈戎を、子供ながらに必死で守ってあげようとします。芈戎にとっての芈月は姉であると同時にママであるのかもしれません。

芈月のもう一人の弟魏冉が直情型体育会系なのに対して、芈戎は沈着型文化系のようで、おおむね芈月の言いなりに彼女を補佐していくようです。


芈茵徐翠翠

芈茵yīnは、芈月と芈姝の(庶出の)異母おねえさんです。楚の威后(王后)の猛威のもとで育ったおかげで、卑屈で嫉妬深い性格のようです。自分の身分は理解しているものの、あの手この手を使って、手に入らないものを手に入れようとします。

芈月にとって(というか誰にとっても)困ったちゃんなのでしょう。この人がどういう形でドラマに絡むのか、それはわかりません。


赢华(迟嘉)

赢华が惠文王(嬴驷)と魏琰の息子です。本人は、自分が太子になると思っていたようですが、そうはいかないようです。

しかし、王位に執着する赢华は戦場で功績を立てることによって、太子の座を奪取しようとするようです。


嬴稷朱一龙

嬴稷jìは、惠文王(嬴驷)と芈月の息子です。どんな運命が待ち受けているのか、そういうことも知らないほうが良さそうです……って。







樗里疾|嬴疾宋佳伦

樗里疾chūlǐjí(嬴疾)は惠文王(嬴驷)の弟で、嬴驷の厚い信任を得ています。ただし、嬴驷が太子を改めることには、宗族的な立場から反対するそうです。嬴驷は、たぶん芈姝の子供を太子に立てるのでしょう。

この人もあれこれ芈月に協力することになるようですが、どんな波乱万丈が待っているのでしょうか。

庸芮巩峥

庸芮ruìは庸夫人の弟で、秦を代表する役人とのことです。秦にやって来た芈月を最初に見たのが庸芮で、彼は芈月に一目惚れしてしまいます。

しかし、身分が違うため、芈月に愛情を抱きつつ芈月の腹心になります。芈月と秦の旧貴族勢力が対立する際には、この庸芮が緩衝材になってくれるそうです。

庸夫人魏一

庸芮の姐姐が庸夫人で、もとは庸の人なのですが、庸が滅んでからは秦の貴族になります。外見も性格も男まさりで、最も速い馬に乗り、最も強い酒を飲むそうです。

嬴驷に対しても遠慮なく接し、嬴驷も彼女を信頼しているそうです。嬴驷と庸夫人にはあれこれの関係があるのでしょう。これも見てのお楽しみにしておきましょう。


魏冉张钧涵

魏冉rǎnは、芈月のパパが異なる弟です。なんで姓が魏なのかというと、パパが魏甲という男だからです。魏甲は、楚后が向氏を後宮から追い出して、無理やり向氏にあてがった男です。

芈月は弟を守らなければなりませんが、魏冉も小さいころから “大きくなったら、姐さんを守る” という誓いを立て、やがては秦の将軍に成長していくようです。

白起曾虹畅

中国のドラマでは、よく狼といっしょに育った狼少年が登場します。《步步惊心》 の原作者、桐华の小説をドラマ化した 《风中奇缘(風中の縁)》 では刘诗诗が狼少女を演じていました。

この白起もそんな狼少年のようです。芈月は义渠王の手からこの狼少年を救い出し、魏冉に渡します。もうドラマは、三分の二あたりでしょうか。白起はさっそく天才的な軍事的才能を発揮して、数々の功績を立てるようです。


张仪赵立新

秦の惠文王の宰相が张仪で、天下に名をはせる遊説家とのことです。纵横学(戦国時代における政治外交学の一派)を代表する人で、遊説するだけで戦わずに他の国を秦に従わせてしまうようです。





苏秦张潇恒

张仪の後に出た纵横家の遊説家が苏秦で、この人は合纵学を起こすようです。

事情はわかりませんが、燕の燕易后(孟嬴)と愛し合うことになり……もう、物語はかなり進んでいるのでしょうか?



孟嬴|燕易后毛俊杰

惠文王の娘で、燕の昭王のママです。彼女は、芈月と同じく太后となって “燕易后” と呼ばれるそうです。

芈月とあれこれの共通点もあるのですが、決定的に異なるのは……こういうことも知らないでおきましょう。


原子霏 芈月传《芈月传》主题曲


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