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宁浩(ニン・ハオ)の軌跡 -- 主役は乗り物だ
でも紹介しましたが、
无人区 2013(2010)
は、あわや幻の映画になってしまうところでした。《疯狂的石头》 2007、《疯狂的赛车》 2009 と立て続けにヒットを飛ばした宁浩は、《无人区》 を2010年のお正月に公開する予定でした。
しかし、審査に通らなかったため上映できません。その後、丸4年かけて6度目の審査でようやく通ります。こうして、この映画は2013年12月3日に公開され、ヒットします。
審査のたびごとに、宁浩がどの程度手を入れたのかはわかりませんが、宁浩や徐峥、黄渤のファンにとっては、とにもかくにもようやく見ることができたわけです。
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「すごい! 見てみろ」
くらいしか言えない映画というのが、ときにはあります。たとえば、ゴダールの 《ウィークエンド》 とかでしょうか。
この 《无人区》 は、そんな映画です。
《疯狂的石头》 と 《疯狂的赛车》 には、それなりにあれこれのお飾りがあったわけですが、ここではすべてのお飾りは剥ぎ取られ、むき出しの出来事が映像として提示されます。
なにしろ、出来事は、500キロ続く無人地帯の砂漠で起こるのです。冒頭、砂漠で黄渤が鷹だか隼だかをつかまえています。黄渤は警察に捕まってしまい、車で護送されます。
黄渤が警察をからかっていると、何の前触れもなしにでっかいジープが警察の車に体当たりして、警察の車はどっかーんと転がり、警察は死んでしまいます。
ジープに乗っていた男は、黄渤のボスのようです。
さあ、車と車がぶつかるぞ! であれば心の準備もできるわけですが、黄渤のばか話しににやにやしているとき、いきなりジープに体当たりされたら心臓に良くありません。この唐突な暴力表現が、この映画が表現する “出来事” の象徴です。
ぼくたちは映像の快楽を、思う存分味わえばいいでしょう。
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ボスはこのことを警察に通報し、裁判になります。ボスを弁護するために、街からやってきた弁護士が徐峥で潘肖という名前です。この映画では、ほかの人の名前はほとんどわかりません。
徐峥はまんまとボスを無罪にし、弁護料の支払いについて交渉します。しかし、ボスは10日待ってくれと言います。
そういうわけで、ボスの妻がお気に入りの紅い乗用車を担保代わりにして、徐峥は自分の街へ戻る旅に出ます。
ボスは金など払うつもりはなく、黄渤に徐峥を殺させるつもりです。黄渤は無人地帯で、徐峥を待ち伏せしています。しかし、徐峥は黄渤に出会う前に、わらを運ぶトラックに出会ってしまいます。
このトラックがたらたら走っているので、徐峥は追い抜こうとしますが、トラックの運転手は徐峥の車のフロントガラスに唾を吐きかけます。怒った徐峥は車を止め、トラックから降りてきた運転手の帽子を奪い、帽子でフロントガラスの唾を拭きます。
運転手は徐峥をぶっ飛ばし、トラックからもうひとり降りてきます。このトラックの二人も名前はわかりません。しかし、この二人を演じているのは 《疯狂的赛车》 の殺し屋コンビです。今回は、巴多は王双宝を哥と呼んでいます。宁浩ファンは、ここで大喜びできたことでしょう。
王双宝は、徐峥の車の運転席に小便をぶちまけます。徐峥とトラックの並走はさらに続き、トラックの二人は徐峥の車のフロントガラスにモノを投げつけ、フロントガラスをひび割れだらけにしてしまいます。
徐峥はジッポに火をつけ、ジッポをタバコの箱に入れ、トラックのわらに投げつけます。わらが燃えて火事になります。こうして徐峥は、まんまとトラックの二人に仕返しします。《疯狂的赛车》 のジッポを、覚えているでしょうか?
その先で、車が故障したふりをして、徐峥に助けを求めようとしているのが黄渤です。しかし、徐峥はフロントグラスがぐちゃぐちゃなため、はじめは黄渤が目に入りません。あわてて急ブレーキをかけるのですが、黄渤は車にぶつかって吹っ飛んでしまいます。
徐峥は、息も絶え絶えな黄渤を車に乗せて、なんとかする手立てはないものかと車を走らせます。すると、無人地帯であるにもかかわらず、ぼろぼろで木造のガソリンスタンド--“夜巴黎” にたどり着きます。
こうして、出来事と出来事が激突する映像のスペクタクルが始まります。
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宁浩は、この映画を 《绿草地》 を作っているときに構想したそうです。ならば、宁浩映画を
《香火》- 《绿草地》 - 《无人区》 - 《疯狂的石头》 ……
という順番で考えると、宁浩が表現してきたことの流れが、とても理解しやすくなると
思います。
出来事は突発的に生起します。このブログの宁浩関連のほかの記事でも何度か書いてきましたが、出来事が生起するとき、そこには意味や価値は関わっていません。ソクラテスやプラトン、あるいは孔子が介在する余地はまったくないのです。
つまり、出来事と、“愛とは” とか “人間とは” とか “生きるとは” とかと、あるいは “自分とは” とか、あるいは “理想” とか “正義” とかとは何の関係もないということです。
ディオゲネス・ラエルティオスの 《哲学者列伝》 で、もっとも笑えるのは著者のディオゲネスという名前とは何の関係もない犬の哲学者・ディオゲネスとプラトンの数々の対決です。
たとえば、プラトンが道端で演説していて「机というものは」と言うとき、犬・ディオゲネスは「机は机であって、“机というものは”とはいったい何なんだ」みたいいなことを抗議します。
ただの“机”を“机というもの”と言ってしまうとき、たたの物を抽象化してしまいます。それをたとえば “ソクラテス化” とか “プラ
トン化” と呼んでもいいでしょう。
単純に言えば、“意味付け”とか “価値化” みたいなことでしょう。そんなことは、たとえば現代の日本においては韓国系の哲学者におまかせしておきましょう。そうではなくて、出来事を出来事として表現してきたのが宁浩です。
宁浩は、出来事が生起する現場、その瞬間をずっと描いてきました。
そして、出来事と出来事は互いにぶつかり合い、おかげで新しい出来事が生起し、事態は(つまりは映画は)どんどん複雑になってきたわけです。
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この映画の豆瓣での評価は、現在(2014年5月1日)、155,546人が投票して8.1とかなりの高評価です。ただし、熱烈な宁浩ファンであればあるほど、★5つではなく★4つに止めているようにも思います。
(豆瓣の人気投票については、たとえば 《步步惊情》 を参照してください)
なぜかというと、それは……わざわざ語る必要はないでしょう。実際に映画を見て、ちょっと残念に思ってください。
黄渤 徐峥2013新电影《无人区》 终极版预告片
按这看720p高清完整版[无人区]
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宁浩の軌跡 -- 主役は乗り物だ
星期四,星期三 2001
香火 2003
绿草地 2004
疯狂的石头 2006
奇迹世界 2007
疯狂的赛车 2009
无人区 2013
黄金大劫案 2012
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