2016年3月15日火曜日

恶棍天使 2015|軽さに満ちた孙俪のフワフワにくるまれてうっとりする



昨年(2016年)の12月に公開され、けっこう稼ぎはしたものの、まったく評判のよろしくない映画が

《分手大师》 2014
恶棍天使 2015

です。これはいわば “分手大师 PART2” です。《分手大师(失恋の達人~上手に愛を手放す方法)》 2014 は、俞白眉という人が書いたお芝居 《分手大师》 を元に、俞白眉と邓超が共同監督、俞白眉がシナリオ、邓超が主演した映画でした。《恶棍天使》 も、まったく同様のパターンです。

ただし、《分手大师》 のヒロインは杨幂でしたが、《恶棍天使》 のヒロインは邓超の嫁さんである孙俪です。

もうすぐ(2016年3月20日)2015年に公開された映画を対象にした “金扫帚奖(ごみ映画大賞)” が発表されます。第六届金扫帚奖(2014年公開映画が対象)では、《分手大师》 は最高の栄誉 “最令人失望影片(もっともがっかりさせたで賞)” を獲得しています。《恶棍天使》 は、再度 “最令人失望影片” を獲得しそうな勢いです。

でも、ぼくはこの映画が大好きです。映画が始まってすぐさま “あ。俺はこの映画好きだ!” と思える映画だってあります。そんな感じで、この映画が好きになりました。


ぼくが、どんなふうにこの映画を好きなのかをしゃべる前に、映画を見た人たちが、どんな悪口を言っているのか、豆瓣からいくつか拾ってみましょう。3月15日現在、6,1701人が投票して、総合評価は 4.0 となっています。

最可怕的是全场爆笑的时候我根本不知道他们在笑什么(もっともぞっとしたのは、劇場のみんなが爆笑している時、みんなが何を笑っているのかわからなかったことだ)

烂到其它雷片自动加十星,装疯卖傻、呲牙咧嘴、白痴犯贱、吃苍蝇舔屎(腐ってる度はほかのくず映画の10倍。きちがいのふりしてまぬけを売っている。ばか笑いして白痴であることを暴露している)

友邻说该片比《分手大师》还烂,我曾表示怀疑,但看到第25分钟,我确认这一点了(ご近所さんが 《分手大师》 より腐ってるって言ってたのを疑ってたんだけど、25分間見て腐りようがよくわかった)

我都不好意思和别人说我看过....(この映画を見たなんて恥ずかしくて言えない)

俞白眉是真的没有才华,邓超是真的不好笑,孙俪是真的被抬高(俞白眉って才能がなくて、邓超はまったく面白くない。ただし、孙俪はレベルが上がった)

不是说低智商的就是喜剧,充其量只是儿童剧而已(知能指数最低の、がき向け映画だ)


冯小刚が微博で 《恶棍天使》 に “赞(いいね)” したことが話題になって、後で冯小刚は手がすべっただけだと語ったとか、罵倒の嵐に憤慨した邓超が微博の 《恶棍天使》 公式サイトに寄せられた好意的意見を1時間に90通、微博で発信したとか、そんなことも話題になりました。

大陸における映画やドラマの評価は(映画やドラマに限ったことではありませんが)、一度固定しまうと永遠に再評価されることはありません。それは、大陸以外の日本とかあれこれの国だって同じようなものかもしれません。

ただし、大陸では、誰かが映画やドラマを評価するとき、その言葉がまったく同一なのです。誰かの誰にでも納得できそうな “決め” の評価が登場すると、誰もがそれと同じ言葉を使いますす。それが正しい評価なのです。

“みんなはこう言ってるけど、自分はこう思う” という努力は、誰にも見向きもされません。これは、現在の共産党権力がどうのうのとか、そういう問題ではなく、大陸においてえんえんと受け継がれてきた伝統だと思います。

《大话西游》 1995
1つだけ例外があります。《大话西游(チャイニーズ・オデッセイ)》 は、1995年に香港でも大陸でも公開され、香港でも大陸でも話題にはなりませんでした。ところが1997年くらいから大陸で “これって、すごいんじゃね!” と、みんなが言い出します。こうして 《大话西游》 は大経典映画となります。

大陸で徹底的に受けないもの--それは “わけのわからないもの” です--と書き始めましたが、そんなことについては、また今度にしましょう。


《分手大师》 は、邓超の女装ダンスシーンなど、感心した部分はあったものの、全体としては退屈でした。《恶棍天使》 では、邓超の肉体演技はさらにパワーアップしています。感心はしますが、それがすごいとか、そういうことを言いたいわけではありません。

この映画がどれだけ白痴丸出しで、どれだけくだらないギャグを連発していいようが、決して崩壊していないのは孙俪がいるからです。孙俪が演じる查小刀はIQは抜群なのですが、EQ(心の知能指数)は最低です。髪型も乱暴なおかっぱで、でっかいメガネをかけていて、おしゃれには無縁です。

仕事を首になり、ママからも親子の縁を切られ、すっかり意気消沈した查小刀は、心の問題をなんでも解決してくれるという神医 折耳根の広告を見て、折耳根の診察を受けます。折耳根が小刀に与えた薬は、重度の不眠症である莫非里(邓超)です。

莫非里はお金の取り立て屋である恶棍なのですが、折耳根の見立ては、性格が極端に異なる查小刀と莫非里が交流すれば、お互いの心の問題が解決するだろう--というものでした。こうして、莫非里と查小刀の冒険と恋の物語がはじまっていきます。


この映画の中にいるのは、テレビドラマのアイドルだった孙俪でも、《霍元甲(SPLIT)》 とか 《画皮(あやかしの恋)》 とか 《关云长(三国志英傑伝)》 といった退屈なだけの映画における脇役の孙俪でも、宮廷ドラマ 《甄嬛传(宮廷の諍い女)》 のヒロインとしての孙俪でもありません。

《越光宝盒》 2010
《恶棍天使》 の孙俪とは、《大话西游》 の監督である刘镇伟(ジェフ・ラウ)の 《越光宝盒》 2010 で、底抜けに脳天気な狂気を演じた孙俪の発展形です。

孙俪は香港の刘镇伟と、大陸で三本の映画につきあっています。いわば、“刘镇伟の孙俪三部作” です。

机器侠 2009
越光宝盒 2010
大话天仙(天仙奇缘) 2014(2011)

《大话天仙》 2014
《越光宝盒》 と 《大话天仙》 は、孙俪の演技力を飛躍的に鍛えたように思います。《越光宝盒》 が脳天気な狂気ならば、《大话天仙》 では冷たく透きとおった狂気を披露してくれます。

《大话天仙》 の孙俪は、超を超えるほどきれいでした(完成しなかった映画ですが…)。

孙俪は、刘镇伟の映画に出ている時期、ドラマの仕事はしていません。《天仙奇缘》 が座礁した後、孙俪は 《甄嬛传》 2012 で、アイドルとしてではなく圧倒的な女王として、ドラマに戻ってきます。

ただし、《甄嬛传》 後、結婚・出産がありました。娘の出産後、ドラマ 《辣妈正传》 2013 に出ますが、今度は二人目の娘の出産です。そんなこんなで孙俪は、昨年(2015年) 《芈月传》 と 《恶棍天使》 で、ドラマにも映画にも帰ってきました。


《恶棍天使》 の孙俪の演技は、なんとすてきなことでしょうか。地味で消極的な女が、戦う女、愛する女に成長していきます。そして最初から最後まで、地味だろうが消極的だろうが、戦おうが愛そうが、孙俪の演技は、その表情、しぐさ、態度、行動--すべてが軽さに満ちています。

どんなシーンでもいいのですが、いくつかのシーンを思い出してみましょうか。

莫非里が戦っている最中、バットを右の手から左の手へ、左の手から右の手を投げて持ち変えるときの素人まる出しなぎこちなさ。いきおいよくジャンプして、お!  武功もできるのかと思わせて、実は地べたに落っこちていただけだったときの顔。莫非里に踊ろうと誘われて、孙俪が “わたし、踊れないの” と言えば誰だって笑います。小刀がろう人形の甄嬛に出会ったときの、小刀と甄嬛のギャップ。

ぼくは、けっこう笑いましたが、ずっと笑っていたというよりも、孙俪のフワフワした軽い演技にずっと見とれていました。ことばで説明しても、しょうもないでしょう。

孙俪ファンの人は、実際に見て孙俪のふわふわにくるまれてください。

極端にほめてしまえば、孙俪は、チャップリンとかキートンとかマルクス兄弟たちとか、偉大な(チャップリンは偉大だとは思いませんが)お笑いスターのすべてをマスターしてしまったと言ってもいいように思います。

スラップスティックなお笑いとは、ある種の狂気の表現と言ってもいいでしょう。《越光宝盒》 と 《大话天仙》 の孙俪は、刘镇伟が与えた狂気を演じるという試練を見事に演技しました。そして、この 《恶棍天使》 では、狂気が “軽さ” にまで到達しています。


芸の1つの到達点は “重さ” ではなく、“軽さ” でしょう。たとえば、ジル・ドゥルーズの文章が、いつもとても軽いように。

俞白眉と邓超は 《分手大师》 でも、杨幂にふわふわ感を出させる努力をしました。杨幂は、それなりにふわふわ感も出しはしたのですが、“軽いお笑い” には到達できませんでした。杨幂は、現代ものに出るとたん “ただ単なるきれいなおねえさん” になってしまいます。

そもそもなんで杨幂がなんで有名になったのかというと 《神雕侠侣》 2006、《仙剑三》 2009、《》 2011 における“軽さ” だったはずです。特に 《仙剑三》 と 《宫》 では杨幂独自開発と思われる “軽いお笑い” を誘導する小細工が効いていました。でも、ぼくたちは、軽いからこそすてきだった杨幂には、二度とお目にかかれないのかもしれません。


《画壁》 2011
蛇足で書いておくと、孙俪と邓超が主演した映画はこれがはじめてではありません。《画壁》 2011 という映画があって、これは “孙俪と邓超、結婚おめでとう” という意味合いの映画でした。この映画は実質的な 《画皮》 のPART2です(続編ではありませんが)。

“結婚おめでとう” 映画と言えば、杨幂と刘恺威の 《Hold住爱》 という悲惨な映画がありました。邓超と刘恺威を比べて、杨幂と刘恺威はいずれ離婚するだろうなどと言う必要もないように思います。

そんなあれこれの事情により、《恶棍天使》 では今や死語となっているであろう “Hold住” という言葉も耳にできます。


恶棍天使 Devil and Angel 2015 终极预告



邓超 - 有情世间 《恶棍天使》电影 主题曲


《恶棍天使》上海首映礼发布会群访完整版

2016年3月4日金曜日

上瘾 2016|当局に封殺された高校生のボーイズラブを描くアイドルドラマ



ぼくたちの中国語の先生
去年(2015年)の秋、こんなことがありました。ぼくの中国語の先生が、中国にいる友だちからBL(ボーイズラブ)もののコミックやDVDを買ってほしいと頼まれました。そんなわけで、ぼくたち(生徒二人)と先生は、秋葉原にBLものを探しに行きました。

もちろん、先生にBLものを買ってほしいと頼んだ、彼女の友達は女性です。BLという和製英語は、日本語ウィキペディアによると「日本における男性(少年)同士の同性愛を題材とした小説や漫画などのジャンルのこと。書き手も読み手も主として女性によって担われている」と書かれています--そういうことなのでしょう。


ぼくが 《上瘾》 というドラマの存在を知ったのは、《女医 明妃传》 に関連して

目指すは刘亦菲! 刘诗诗における不断の整形、その全真相 !!

という記事を書いていた2月26日でした。今(2016年3月)大陸で最も話題になっているドラマは 《女医 明妃传》 です。そんなのはあたりまえなのですが、百度の人気ドラマランキングで確認すると、《女医 明妃传》 と大差なく2位につけているのが 《上瘾》 でした。

《女医 明妃传》 についてのもう1つの記事(2月17日)

上海唐人の今後とドラマの時代背景、あるいは霍建华ではなく黄轩について

でも、百度の人気ドラマランキングの当日の画像を載せていたので、こっちを確認してみると第5位につけています。10日くらいの間で、ぐんぐん人気を上げてきたわけです。どんなドラマなんだろうと思って、調べてみると

上瘾 2016

は、今年(2016年)の1月29日からネットでの放映が始まった、高校生のBLものネットドラマでした。たいした興味はなかったのですが、動画を探してみるとどこにもありません。さては?  と思って、あれこれ調べると、やっぱりそうでした。

一話20分くらいで週3回の公開だったのですが、まだ全話が公開されていない2月22日、当局=广电总局(中华人民共和国广播电影电视总局)によって公開が禁止され、ネット上の動画はすべて削除させられてしまったそうです(公開されたのは15話まで)。


ぼくは、QQ空間で 《上瘾》 の第一話を見たという話を書いてみました。中国語の先生は “え、見れないんじゃないの?  私も見たい!” と言ってきました。15話を全部見たという知り合いは “颜値挺高的,也很有爱很般配(顔のレベルも高いし、とっても愛があって、とってもお似合いな二人” と言ってきました。

ぼくは、特に何か書きたいと思ったわけではありませんが、でも話題にはなっているので、最初のほうだけちょっと見て、適当に記事をでっちあげておこうと思いました。で、今、こうしてこの記事を書いているわけです。

でも結局なんだかんだ、全部見てしまいました。このドラマ、けっこう悪くありません。予算不足を補うためなのでもありますが、軽快でスピーディな展開にも好感が持てます。

このドラマの放送禁止は、大陸のBL好き少女たちにとって、とても悲しい出来事だったでしょう。

原作は 《你丫上瘾了?》 というネット小説で、書いているのは柴鸡蛋(武粗)という人です。この他にも 《锋芒》、《逆袭》、《势不可挡》 といった作品があるそうです。この人は当然、女性でしょう。本当かどうかは知りませんが、1989年北京生まれという情報もありました。


どんな物語かというと、お金持ちの男とお金持ちではない女が再婚するのですが、そんな事情を知らない二人の息子同士が同級生となり、この二人がボーイズラブに……という展開です。

顾海というお金持ちのお坊ちゃまを演じているのが黄景瑜です。湖南卫视の 《我是大美人》 という美男美女が集合するバラエティで有名になったそうです。

顾海は、王家卫の 《春光乍泄(ブエノスアイレス)》 1997 で言えば梁朝伟娄烨の 《春风沉醉的夜晚(スプリング・フィーバー)》 2009 で言えば秦昊に相当する、どちらかというとクールな役どころです。

この三人は、みんな顔がけっこう尖っています。

昨日(2016年3月3日)、于正が 《半妖倾城》 というドラマを手掛けることが発表され、黄景瑜はこのドラマに出るそうです。于正にとっては、昨年(2015年) 《宫锁连城(宫3)》 盗作裁判で琼瑶おばちゃまに負けて以降、はじめてシナリオを書く作品になります。

大陸のインテリ層で、于正のことを良く言う人はいません。ただし、大陸のインテリの吐槽(ツッコミ)はどれも画一的で面白くありません。ぼくは 《半妖倾城》 で、于正がどんな仕掛けを披露してくれるのか、楽しみにしていたいと思います。


貧乏な家の息子ではあるけれど、とても頭のいい白洛因を演じているのは、许魏洲という人です。

この人は今のところ、このネットドラマと、やはり今年(2016年)1月に公開されたネット映画 《电竞也疯狂》 にしか出ていないようです。

このドラマでの役どころは、《春光乍泄(ブエノスアイレス)》7 で言えば张国荣、《春风沉醉的夜晚(スプリング・フィーバー)》 で言えば陈思成に相当する、どちらかというとナイーブなタイプです。みんな、顔のまるみがチャーミングです。

许魏洲の顔を見ていて、ぼくは 《花千骨》 で落十一を演じた董春辉を思い出しました。许魏洲は、董春辉をきりりと2枚目にしたような顔だと思います。この人も、これから、あれこれ活躍していくのでしょう。

上癮网络剧 完整版主题曲MV


[ENG SUB] 《上瘾》完整版宣传片


上癮網路劇 海因 - 我只在乎你


上癮網路劇 片尾曲 - 慢慢走