2014年2月22日土曜日

星期四,星期三|宁浩と佐藤正午(時間の入れ子表現)



世界では、同時に無数の出来事が起こっています。たった1つの物語ですら、あっちゃこっちゃで起きていることのすべてを、時系列にしたがってすべてを表現することは困難です。

瞬間的な出来事の場合、スクリーンの2分割とか3分割という手法を使うこともできます。しかし、知らないもの同士が、偶然の出来事によって出会うことになってしまう場合、語りの順番に時間差を設けるしかありません。

壁に落書きをしていた青年が、警察官に見つかって逃げます。青年は、自転車に乗って逃げます。ついには、自転車を捨てて、カバンを壁の向こうに放り投げて、自分も壁を乗り越えます。

大学の授業で、女の子はぼんやりとしています。教授とそりの合わない彼女は、教室を出てしまいます。彼女が、キャンパスの壁にもたれて写真集を見ていると、カバンが飛んで来て、写真集は水たまりに落ちてしまい、青年も壁の上から落ちてきます。

本来出会う必要のないもの同士が出会ってしまうとき、宁浩は、この時間差表現というか時間の入れ子表現とでも呼ぶべき手法を多用します。特に新しい表現ではありませんが、この手法は特に 《疯狂的石头》 でスリリングなお笑いを生み出すことになります。

星期四,星期三 2001

が、宁浩の1つ目の作品です(たぶん)。いきなり冒頭から、青年と女の子が出会う、時間差表現あるいは時間の入れ子表現が登場します。これは、ラストにおける、大きな仕掛けにつながっていきます。

この映画(ビデオ?)は単純に言ってしまうと、3つの物語で構成されるオムニバスです。それぞれどんな物語かというと

第一部:アート編
第二部:ミュージック編
第三部:マカロニウェスタン編

といった構成になっています。第一部:アート編は、もともと絵を描くのが好きで静止画や動画の世界に入ってきた、いかにも宁浩らしい物語です。第二部:ミュージック編も、バンドをやっていた宁浩だからこその物語でしょう。

第三部:マカロニウェスタン編は、苦しまぎれにマカロニウェスタン編というタイトルをつけてみました。エンニオ・モリコーネ(ふう)のチャラララーという音楽が、基調になっているからです。

なんでマカロニウェスタンなのか? それはたぶん、宁浩がマカロニウェスタンが好きなのだ、ということでしょう。なぜ、宁浩がマカロニウェスタンが好きなのか? それは、後の 《奇迹世界》 2007 あるいは 《无人区》 2013 で明らかになります。

そのへんの事情については、 《奇迹世界》 2007 あるいは 《无人区》 2013 で語ることにして、ここではこの第三部:マカロニウェスタン編とは、普通のおっさんが事件に巻き込まれ、戦う姿なのだ--ということにしておきましょう。

このおっさんの活躍により、3つの物語すべてが串刺しにされ、すべての出来事が同時に起こっていたことが判明します。ただし、第一部:アート編の青年と女の子は……。

日本の小説家のなかで、時間差表現というか時間の入れ子表現が好きなのが佐藤正午でしょう。とりわけ、佐藤正午の「Y」は穿越に挑戦します。宁浩と佐藤正午を並べておく--おお、けっこう素敵なことかもしれません。

なんで? 佐藤正午も宁浩も、自転車が好きだからです。

最後に言っておきます。第一部:アート編で、水曜日(星期三)、女の子のもとにたどりつけなかった青年の腕の映像を覚えておきましょう。

星期四,星期三


宁浩の軌跡 -- 主役は乗り物だ
星期四,星期三 2001
香火 2003
绿草地 2004
疯狂的石头 2006
奇迹世界 2007
疯狂的赛车 2009
无人区 2013
黄金大劫案 2012

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